個人的にちんちんという言葉が好きなのだが、なんでだっけなあと記憶をたどったところ、中学時代に遊んだ一本のゲームソフトのせいだったことを思い出した。
MOTHER2だ。
マザー2を知らない人のために一応説明しておくと、コレは1994年に発売されたスーパーファミコンのソフトだ。いわゆるRPGであり、主人公の少年がなんとなくアメリカっぽい雰囲気の世界を旅しながら、宇宙からの侵略者っぽいヤツらとの戦いに挑む話である。
独特な雰囲気と糸井重里さんのナイスな言葉選びで、発売後三十年経った今でも熱烈なファンを持つ名作である。僕も大ファンだ。
このゲームのどこに〈ちんちん〉要素があるのか、一度プレイした人でもわからないかもしれない。そういう人は今この文章を読みながら、「コイツ、名作ゲームにケチをつけようとしている」と憤激していると思う。「ちんちんなんてワード、一回もゲーム中で見なかったぞ」とも思っているはずだ。
それは半分正しいし半分間違っている。プレイ方法によってはちんちんというワードは一度も画面上に表示されないからだ。
だがマザー2にちんちんは存在する。
それどころかマザー2はちんちんのゲームだ、と言うこともできる。
実はちんちんは、主人公の名前なのである。
いま大勢のマザー2ファンから大ブーイングを浴びている気がするが、説明させて欲しい。
マザー2を始めてすぐに、たのしいネーミングの時間があるでしょう。
主人公をはじめとする四人の少年少女たちの名前と、主人公の飼い犬の名前、それからカッコいいと思うモノの名前、あとはすきな献立を決める時間。
でもネーミングを考えるのが面倒だとか、いい名前が思いつかなくって困る、みたいな人もいる。
そこでマザー2には、おまかせというコマンドがある。
主人公の名前を決める際に〈おまかせ〉を選ぶと、まず最初に〈ネス〉と表示される。これはいわゆるデフォルトネームみたいなもので、対外的に紹介されるときは「主人公の少年、ネス」みたいに語られることになっている。そこそこの割合の人が、「公式がネスって呼んでるしネスにしよう」と考えて、おまかせコマンドをそれ以上押すことをやめてしまう。
でも実は、しつこくおまかせを押し続けていると、〈ちんちん〉と表示される。忍耐の執念のちんちんだ。なにがどうして〈ちんちん〉が主人公の名前候補に含まれているのか、その理由はよくわからない。でもいいセンスだと思う。
ちんちんの存在に気が付いたのは三周目のプレイを始めた時のことで、(ひどいな)と思ったけど気分転換にもなるから悪くないかもなあ、と思って採用した。ネスはちんちんになった。
これが大正解だった。ゲームは一転して鮮烈な体験に変わった。
物語はのっけから〈ちんちんの家〉を舞台に始まるし、出てくるキャラクターが次々とちんちんを連呼する。
「ちんちん!出てちょうだい!」とか
「俺はちんちんと話がしてぇんだ。」とか、
「ぼくはちんちんだ。」とか、
「俺はちんちんにしたがう。ちんちんのしもべなのだ。」
みたいな、一度読んだら忘れられないような名台詞もある。
これまでの感動がちんちんによってすべてぶち壊されていくのを目の当たりにしながら、中学生の僕はただただ笑っていた。
同時に、ちんちんが歩き回り、バットやヨーヨーを振り回し、時にふしぎなチカラを使い、女の子と出会い、友達と力を合わせて冒険するその姿に、シュールなおかしみと確かな感動を覚えた。すごいぞちんちん、と思った。
その頃にはもうすっかり、ちんちんを下らない言葉だとは考えなくなっていた。
ちんちんは親しみがあってファニーでユーモラスでステキな言葉だ。
もっとちんちんを使いたい。そう思った。
そんなわけで日常会話において、隙があればちんちんというワードをねじ込んでいるのだが、タイミングを間違えるとかなり親しい友達ですら(うわあ)という顔をすることがあるので、なかなか難しい。今後も精進していきたい。